Share

004 出発

last update Last Updated: 2025-11-23 11:01:57

「……」

 動かないミウを見て、恋〈レン〉は少し心配になってきた。

「ええっと、これって……まさか死んじゃった、とかじゃないよね」

 そうつぶやき見守っていると、やがてミウの体が小さく動いた。

「あ、動いた……ミウ? 大丈夫?」

 ミウが顔を上げ、一声鳴く。

「いい感じの時間軸があったよ。今から10年後」

「10年後、27歳かぁ……あ、でもちょっと待って。ミウってば今、何をしてたの?」

「恋ちゃんの希望に沿える未来を探す為に、別の時間軸の僕と意識をリンクしてたんだ」

「リンク?」

「簡単に言えば、未来を見てきたってこと」

「未来をって……すごいことをさらっと言われたような」

「あははっ、深く考えなくていいよ。とにかく恋ちゃんの望みに応えられる、ふさわしい時間軸だと思う」

「そうなんだね。ありがとう、ミウ」

「それでね、行く前に説明しておくことがあるんだ」

「うん。まずは着替えよね」

「それは大丈夫、着替えなくても問題ないから」

「そうなの? 私、寝間着のままで未来に飛ぶの? 流石にこのままじゃ、恥ずかしいと言うか何と言うか」

「恋ちゃんは今から未来に行く。でも厳密に言えば、恋ちゃん自身が行く訳じゃないんだ」

「よく分からない」

「簡単に言えば、恋ちゃんの姿と意識、情報をコピーして10年後の世界で再構築するんだ。だから今の恋ちゃんの体はここに残るし、服装は……僕がうまくしておくよ」

「また……すごいことをさらっと」

「難しいだろうから理解しなくていいよ。とにかく恋ちゃんは、10年後の世界に行けるんだ」

「うん、ミウがそう言うんなら分かった」

「ありがとう。それで向こうに着いてからのことなんだけど、恋ちゃんの姿を認識出来るのは二人、未来の恋ちゃんと蓮〈れん〉くんだけだから」

「二人だけ?」

「そうでないと、ややこしくなっちゃう。突然10年前の恋ちゃんが現れたら、他の人も驚くだろ?」

「それもそうか……でも、未来の私や蓮くんはどうなの? 驚くと思うんだけど」

「それは問題ないよ。前もって僕が二人に情報を流しておくから。そして彼らは、そのことに何の疑問も持たない。過去の恋ちゃんが来たことを、当たり前のこととして認識してくれる」

「何だか、色々すごいね」

「そして二人は、恋ちゃんのことを決して口外しない。10年後の世界でも、時間旅行〈タイムトラベル〉は空想の物だからね。そしてこちらの恋ちゃんなんだけど」

「どうなるの?」

「ベッドで眠った状態になる。未来に行ってる間ね」

「でもそれって、声をかけられても起きないってことよね。お母さんに心配されないかな」

「それも大丈夫。恋ちゃんが向こうの世界に一年いたとしても、戻って来るポイントを今の時間に設定しておくから」

「……脳が追い付かない」

「ああ恋ちゃん、深く考えないで。さっきみたいにパニックになられても困るから」

「う、うん。分かった、考えないようにするよ。とにかく私は、今から10年後の未来に行く。私のことが見えるのは未来の私たちだけで、私が来ることも事前に知ってる。今の私はこの部屋で寝ていて、戻ってくるのは今の時間。そういうことね」

「あははっ……恋ちゃんって本当、面白いね。難しい話だとパニックになるのに、いざ受け入れたら当然のように理解してくれる」

「……褒めてるの、それ」

「褒めてるよ、勿論。それと僕は基本、恋ちゃんの前に現れない。でも心配しないでね。ちゃんとサポートしてるから。それに恋ちゃんが呼んでくれれば応えるし、姿も見せるから」

「分かった。それで私、どれくらい向こうにいてていいのかな」

「それは恋ちゃん次第かな。恋ちゃんが満足した時がその時、それでいいと思うよ」

「どれだけいてもいいの?」

「うん。気が済むまで楽しんでくるといいよ」

「でもそれって、こっちに戻って来た時、頭だけが年をとってる、なんてことにならないのかな」

「いいところに気付いたね。確かにそうだよね。もし向こうの世界に10年いたとしたら、恋ちゃんの精神年齢は27歳になってしまう。

 でも大丈夫、その辺のこともちゃんと手を打ってるから」

「どうやって?」

「戻ってきた恋ちゃんにとって、向こうでの出来事は夢を見ていたぐらいの感覚になるんだ」

「なるほど、それなら問題ないね。あ、でも……ちょっと待って、それじゃあ今からの旅は、戻って来た時に忘れてるってこと?」

「それは恋ちゃん次第かな。ほら、夢だってそうだろ? 印象に深く残ってるものは、目覚めても記憶に残ってる」

「そうなのかな」

「向こうの世界でのことは、間違いなく恋ちゃんの経験なんだ。恋ちゃんが忘れたくないと思ったことは、きっと覚えてると思うよ」

「そっか……うん、分かった。じゃあミウ、お願い出来るかな」

「さすが恋ちゃん、決断すると早いね。じゃあ布団に入ってくれるかな」

「分かった」

 ミウに促されるままに、恋はベッドに潜り込んだ。

「まずはどこに行きたいかな。恋ちゃんの所かな、それとも蓮くんの所かな」

「勿論蓮くんで。未来の自分より、まずは蓮くんでしょ」

「あははっ、そうなんだね。分かった、じゃあ蓮くんに会えるポイントに設定するね」

「ありがとう、ミウ」

「じゃあ恋ちゃん、いい旅になること、祈ってるよ」

「うん、いってきます」

 目を閉じると同時に、強烈な眠気に襲われた。

 恋が眠りにつくと、ミウは目を細めて鳴いた。

「いってらっしゃい、恋ちゃん」

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 【完結】レンとレンの恋物語   042 恋と蓮の物語

     翌朝。 目覚めた恋〈レン〉は蓮〈れん〉に電話し、神社で落ち合う約束をした。 腕に残る柔らかな感触。それが何なのかは分からない。 でもなぜか、温かい気持ちになった。 * * * 境内で待っている間、恋は不思議な感覚に戸惑っていた。 おかしな夢を見た気がする。 蓮くんと二人で、未来の自分たちに会っていた夢だ。 そこで未来の私たちは、おかしな雰囲気になっていて…… 断片的に、そこであった出来事が脳裏に蘇ってくる。 いっぱい泣いた気がする。蓮くんも泣いていた。 未来の私たちも泣いていた。 ただ一番最後の記憶、一番強く残っている記憶では、みんなが笑っていた。 その笑顔を思い出すと、幸せな気持ちになった。「ま、いっか」 夢だろうと現実だろうと、みんなが笑顔になれたんだ。 だったらそれでいい、十分だ。 真夏の空を見上げてそうつぶやくと、鳥居の方角から蓮の声が聞こえた。「ごめん恋、遅れちゃった」「蓮くんおはよう。私もさっき来たところ。大丈夫だよ」 息を切らせて走ってきた蓮。 恋は微笑み、ハンカチで蓮の汗を拭った。 * * *「昨日、変な夢を見たんだ」「え? 蓮くんも?」「も、ってことは、恋も?」「うん。おかしな夢だったの。でもね、夢にしてはリアルな感じで……本当に経験してきたみたいで」「僕もそんな感じなんだ。僕たちがね、未来の自分たちに会いに行って」「ええっ! 蓮くんもその夢見たの?」「恋もなのかい?」「……何だろうこれ……ああ怖い怖い、変な夢だっただけでも変なのに、蓮くんも同じ夢を見てたなんて」「僕たち、夢の中で意識がリンクしてたのかな」

  • 【完結】レンとレンの恋物語   041 帰還

    「それで、お二人はこれからどうするんですか?」 恋〈レン〉の言葉に、花恋〈かれん〉が少し寂しげな表情を浮かべた。「これでお別れ、ってことかな」「はい……私は、と言うか私たちは、お二人の笑顔が見たくてこの世界にやってきたんです。これからどんな未来に辿り着くのか、それは分かりません。でも私は、今の笑顔を見れただけで満足です。今、最高の気分です」「僕も……未来の自分に会えたことで、自分の中にあったモヤモヤが少し消えた感じです。その……感謝してます」「僕もだよ、蓮〈れん〉くん。君に会えて僕も、昔の自分との誓いを思い出せた。君にとって今の僕は、決して誇れる人間じゃないと思う。だからこれから、君に安心してもらえる大人になれるよう、頑張るよ」「大丈夫よ蓮くん。ちゃんと私が見張ってるから」 花恋が笑顔を向けると、蓮は照れくさそうにうつむき、うなずいた。「元々は幸せな未来を見て、二人を冷やかしながら楽しく過ごすつもりでした。でも、想像してたのと全然違う未来になってて、お二人は幸せと言えない状況になってました。 私の目的は変わりました。何が何でも二人に笑顔になってもらいたい、それまで帰れないって」「元に戻った訳じゃないけど、恋ちゃんが望んでいた未来に近付いた。そういう意味では、これからが本来の目的になってもいいと思う。今からのんびり、私たちとこの時間を楽しんでも」 もう少し、この奇跡の時間を共有したい。そんな思いを胸に、花恋が恋を見つめる。「確かにそうなんですけど、でも……どう言ったらいいのかな。一仕事を終えて満足したって言うか」「ミッション・コンプリートだよね」 蓮の言葉に恋が笑顔でうなずく。「この時代に、私は必要以上に干渉しました。だから……この最高の状態で、私が本来いるべき世界に戻った方がいいような気がするんです」「そっか。やっぱ恋ちゃん、私だね。その決断、すご

  • 【完結】レンとレンの恋物語   040 新しい関係

    「蓮司〈れんじ〉さん、花恋〈かれん〉さん。お互いに言いたいこと、全部言えたでしょうか」 そう言って笑顔を向ける恋〈レン〉に、蓮司も花恋も苦笑した。「そうね。細かいことを言えばキリがないけど、それなりにはすっきりしたかな」「強いて言えば」「蓮司、まだ何かあるの?」「あ、ごめん……そうだね、折角まとまりかけてたんだ。今のはなしで」「ちょっとちょっとー、そんな風に言われたら気になるじゃない。いいわよ別に、今更どんな話が出ても驚かないから。遠慮せずに言いなさいよ」「いや、でも」「いーいーかーらー、言いなさいってば」「痛い痛い、分かった、分かったからつねらないで」「よし、ではどうぞ」「花恋が、その……これ見よがしにゲップしたり、お尻を掻いたりするの……ちょっと控えてくれたら嬉しいなって」「なっ……!」 花恋が顔を真っ赤にしてうなった。「いや、別にいいんだよ。それくらいリラックスしてくれてるってことなんだから。ただほんと、ちょっと、ちょっとでいいんだ。僕にとって花恋は、何より大切な女の子なんだし」「……」 花恋が両手で顔を覆う。そしてしばらくすると、恥ずかしさのあまり声を上げて身をよじらせた。「あ、あはははっ……あのですね、蓮司さん。そのことなんですけど、実は理由〈わけ〉がありまして」 恋がそう言って、蓮司に説明する。「……なるほど、そういうことだったんだ。大丈夫だよ花恋。僕は女性、と言うか花恋のこと、人形だなんて思ってないから。そんなに恥ずかしそうにして、ははっ。無理してたんだね、ごめん」「ううっ……しばらく蓮司の顔、ちゃんと見れないよ……」「でもまあ確かに、お互い

  • 【完結】レンとレンの恋物語   039 夢の続き

     うなだれる恋〈レン〉と花恋〈かれん〉。そんな二人に苦笑し、蓮司〈れんじ〉は頭を掻いた。「僕の決断、花恋にとっては受け入れがたいものだったと思う。でも僕は、夢から逃げる口実に君を使った訳じゃない。そういう風に感じさせてしまったのは想定外だけど、でも僕にとって、花恋の幸せ以上に大切なものなんてなかったんだ。それは信じてほしい」「……うん、信じる」「ありがとう。それと、僕もやっとすっきりしたよ。あの時の花恋、とにかく不機嫌オーラ全開だったから。何をそんなに怒ってるんだろうって、ずっと気になってたんだ」「何であなたってば、そんな……」「ごめんね。長い時間、こんなことで苦しませてしまって」 蓮司の言葉に、花恋は更に肩を震わせた。「それとさっき言った、花恋の期待が重かったという話。出来れば気にしないでほしい。僕にとってそのこと自体、決して嫌なことではなかったから。正直にってことだから話したけど、花恋にそこまで好きになってもらえる物語を書けて、僕は嬉しいんだ」「……ありがとう」「蓮〈れん〉くんもごめんね。本当ならこんな話、まだ恋ちゃんに聞かれたくなかっただろう」「いえ……僕も少しだけ、気持ちが楽になった気がします」「恋ちゃんはどうかな」「私は……蓮くんの物語が好きで、ただそれを応援したかっただけなんです」「だよね。君は本当に僕たちの物語、大切に思ってくれてた。僕たちにとって唯一の、最高の読者だったんだから」「でも、それが負担になっていたんだったら」「読者の期待は作者にとって、励みにもなれば重荷にもなる。そういう意味では、受け止めきれない僕たちにこそ問題があるのかもしれない」「そんなこと……私はただ、夢を語ってる時の蓮くんが好きで」「ありがとう。それでね、恋ちゃん、それに花恋。君たちの質問には答えたけど、この話には

  • 【完結】レンとレンの恋物語   038 重荷

    「蓮司〈れんじ〉さん。あと一つ聞きたいことがあるんですけど、いいでしょうか」「改まって言われると、ちょっと構えてしまうね。それに恋〈レン〉ちゃん、ちょっとだけ顔が怖いよ」「執筆をやめた理由、もう一度聞かせてください」 恋の言葉に、花恋〈かれん〉も真顔になって蓮司を見る。「蓮司、それは私も聞きたかった。あの時あなたは言った。私との未来の為に夢を諦めるって」「そうだね、そう言った」 穏やかに笑みを浮かべ、蓮〈れん〉に視線を向ける。「でも……この話は蓮くん、言っても構わないのかな」 その言葉に、蓮の肩がピクリと動いた。「蓮司さん、それってどういう」「僕たちも昨日ね、色々語り合ったんだ。そして当然、この話題にもなった。 今恋ちゃんが尋ねたこと。それはね、蓮くんの今後の活動にも影響するかもしれないんだ」「そうなの? 私が言ってること、また蓮くんを巻き込んだ暴走なの?」「蓮くんが拒むなら、僕の口から言うことは出来ない。これはね、恋ちゃん。彼の大切な夢なんだ。彼が望まないなら、その日まで待った方がいいと思う」「蓮くん……」「いいですよ、蓮司さん」「本当にいいのかい?」「はい……確かに作家になるのが僕の夢です。断念する未来が来ると分かっていても、今の僕にはまだ諦められません。 ただ、未来の自分に会うなんて奇跡が起こって……きっとこれは僕にとっても、意味のあることなんだと思います。だから今ここで、恋にも知ってもらおうと思います。そうすることで、僕も新しい一歩を踏み出せるような、そんな気がするんです」「分かった。じゃあ答えるね」 蓮司が静かにうなずいた。「花恋との未来の為、夢を諦める。そう言ったのは本心だよ」「どうしてそんなことを」「言葉のままだよ。さっきも言った通り、僕には花恋を幸せにす

  • 【完結】レンとレンの恋物語   037 自信と責任

    「ある時、花恋〈かれん〉に対する感謝の気持ちに、違う感情が混じってることに気付いた。花恋のことを考えるとドキドキする。手を握りたい、唇に指で触れたい。髪に顔を埋めたい、抱き締めたい……そんな気持ちが大きくなっていたんだ」 淡々と語る蓮司〈れんじ〉の言葉に、花恋と恋〈レン〉が顔を真っ赤にした。「そして思った。僕は花恋のことを、一人の女性として意識してるんだって。そうだよね、蓮〈れん〉くん」 そう蓮に投げかけると、蓮も恥ずかしそうにうつむき、小さくうなずいた。「自分の人生全てを捧げても返しきれない、それくらい花恋に恩を感じてる。それなのに僕は、そんな恩人に邪な気持ちを抱いていた。いかがわしい欲望を抱いていたんだ。それは許されることじゃない」「もういい、分かったから……ちょっと待って」 耳まで赤くした花恋が、そう言って蓮司の言葉を遮った。「いくら正直にって言っても、生々しすぎるわよ。何でもう、あなたって人は……いつも無口な癖に、話し出したら止まらないんだから」「ごめんよ。でも、これが本心なんだ」「それにしてもよ。そこまで恥ずかしい告白なんて、別にしなくていいの」「これでもかなり抑えてるんだけど」「それでも駄目。目の前には思春期の子供もいるんだからね」「……そうだった。ははっ、二人共ごめんね」 穏やかに笑った蓮司に、落ち着かない様子で恋がうなずく。「僕は花恋のことが好きだった。でもそれは、花恋にとっては迷惑な話だ。花恋にだって選ぶ権利があるし、何よりこんないい子なんだ、世の男共だって放っておかない筈だ、そう思ってた。 なのに花恋は幼馴染という理由だけで、僕から離れずにいてくれた。その鎖を断ち切ってあげたくて、僕は自分の気持ちを花恋に伝えた。 それなのに、何がどうなってか分からないけど、僕の告白は受け入れてもらえた。僕より遥かにスペックの高い大橋くんを振って、花恋は僕のことを好きだと言って

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status